11月27日と28日に内外海地区の田烏小学校で行われた「鯖のなれずし」の体験学習に参加しました。講師は森下佐彦さん、生徒は内外海小学校の6年生15名でした。鯖のなれずしは、この地域の晩秋から正月、春の祭りに欠かせないハレの料理です。材料として塩抜きしたへしこを使用する点が特徴です。薄皮をむいたへしこを、かすかに塩気が残るまで塩抜き(気出し)しますが、何時間水にさらすかの判断には熟練の技が必要です。塩抜きされたへしこを軽く酢につけてから、米・こうじを頭と背開きした胴体につめてから樽に漬けます。漬ける期間は気温に左右されますが、秋なら10日ほど、冬なら20日ほどが目安だそうです。水分が樽の内蓋からあふれ、表面に「しらとり」がついてからさらに何日か漬け込むと完成です。
森下さんいわく、鯖のなれずしを作るには、暑すぎてもダメ、寒すぎてもダメで、ちょうどこの地域の風土がぴったりだということです。へしこを作るだけでも手間なのに、さらに手間暇をかけてなれずしを作るのは大変な作業だということを強調されていました。魚の塩漬けや塩干魚は世界の沿岸各地でみられる食材ですが、それを塩抜きしてさらに漬け直すというのは大変珍しい食文化だと思います。
冷蔵設備がない時代の保存食であればへしこで充分であったはずです。しかし、そこからさらになれずしにまで工夫し、この地域にしかない固有の味を生み出したことで、鯖は保存食から郷土食への発展をとげました。このような価値が認められ、内外海地区の鯖のなれずしは2006年にスローフードジャパン(Slow Food Japan)から食の世界遺産ともいわれる「味の箱舟(Ark of Taste)」に認定されています。
今回のなれずし体験に参加した内外海小学校の子供たちも、実際になれずしを作ってみてその大変さを実感していました。なれずしとして食卓に並ぶまでに、危険な海で鯖をとり、へしこに加工し、さらに、なれずしに漬けるという大変な手間がかかっていることを知ることにより、食べ物そしてそれを作ってくれた人への感謝の気持ちが子供たちに芽生えることでしょう。これこそまさに食育の本質だと思います。
鯖のなれずしというこの地域に親しまれる食材を使うことで、子供たちも実感をもって、自分たちの故郷が世界に誇る食文化を学ぶことができたと思います。なれずしを次世代に伝える森下さんたちの活動によって、郷土食のなれずしが伝統食となり、いつまでも受け継がれてゆくことを願います。