福井県里山里海湖研究所

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2020年08月のコラム
  •  いま、日本農業遺産に認定された三方五湖の伝統漁法の一つ「たたき網」について調査を進めています。
     三方湖の冬の風物詩「たたき網漁」は、水面を竹ざおで叩いて、仕掛けておいた網にフナやコイを追い込んで捕獲する漁法です。毎年解禁日の12月1日には鳥浜漁協の組合員が湖面に舟を並べ、巧みに船外機を操りながら水面を叩き、大きな水しぶきをあげる様子を見ることができます。

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     魚を音などで脅し、追い込んで捕獲する漁は日本各地で古来から行われていました。三方湖でも慶長14(1609)年の文書の中に(『吉田家文書』)「たゝきあミ」の言葉が登場し、400年以上前から伝統的に行われてきたことが分かります。青竹で水面を叩くようになったのは昭和に入ってからと言われており、以前は舟の縁を木の棒で叩き音を出していたようです。そのため叩き方や出る音から「カチ網」や「コトコト網」などともよばれていました。
     たたき網の魚を脅かす方法はいくつかあったようですが、漁に使われる刺網は「昔から三方湖で使われていたそのままの形」だと鳥浜漁協の漁師さんたちは話します。この網は時代を経て工夫を重ねられて完成した美しい形をしています。

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     今使われている網は丈が1メートルほど、長さ40~50メートルほどのものを2枚連結して使います。購入した網地の上部には浮きの付いたテナワ(手縄)を編み、下部には錘の付いたすそ縄を編んで、漁師自ら漁期の前に1年分の網を作ります。
     網の目の大きさは、三方湖の魚の保護を考えて稚魚がかからない大きさに決められています。浮きはアバと呼ばれ、桐の木のひねた枝から削り出して作ります。アバとアバの間には網にたるみをもたせ、編地がぴんと張らないようにします。このたるみをイセと言います。錘はイワと呼ばれる紡錘形の土錘で、粘土をワラスベ(稲穂の芯部)に巻き付け焼いて作ります。焼くことでワラが燃えて無くなり、糸を通す穴が開くのです。はす川と高瀬川が合流するところに良い粘土があって、その土を練って使いました。昔はイワを作って売りに来る人もいて、一枡いくらで買うこともあったそうです。
     たたき網は、三方湖に入れられると湖底に立ったような状態になります。その横の水面を竹ざおで叩きながら進むと、音と衝撃に驚いた魚が網の方へ逃げて引っかかるのです。この時、イセのたるみと、浮きの浮力と錘の重さのバランスで、かかった魚は網にくるまれるようにかかると言います。魚の掛かりは、手縄の振動で伝わり、最後はタモを水に差し入れて捕獲します。
     網を観察して分かったことは、イセがあるために網の目の模様が、◇だけのつながりではない模様が現れることです。そしてその模様を生み出したのは、三方五湖で漁をしてきた人々が、代々魚を捕るために工夫を重ねた結果です。

     今後、さまざまな漁具の測図作業を進め、教育や農業遺産の紹介ツールとして活用していく予定です。調査は聞き書きや文献をもとに進めています。経験は皆が全く同じであるはずがないので、当コラムの内容と違う事実があるかもしれません。その時はご一報いただけるとお話を伺いに参ります。


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