福井県里山里海湖研究所

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樋口 潤一のコラム

  •  この冊子はCDジャケットサイズの16ページという小さなものです。「地域の名刺」として、その魅力の一端を表現できるものを目指して編集しました。
     始まりは2020年2月14日、勝山市北谷町谷地区の「お面さん祭り」の準備期間でした。この祭りには、毎年大阪府立大学から祭りの準備に携わる学生ボランティアが訪れます。谷区では学生たちに雪国での暮らしや食文化などを実際に体験してもらいながら伝え、学生たちも手伝いをしながら都市部では経験できない時間を過ごします。この交流を楽しみに何年も通う学生もいるそうです。

     そこで、2020年のお面さん祭りに来てくれた学生に、谷の魅力は何か聞いてみたいと考えました。ただ「魅力は何か」と聞いても似たような感想しか出ないと思い、AtoZという手法で「谷にあるもの」を探しだしてもらうことにしました。AtoZは、あるテーマについてAからZまでの頭文字を使ったキーワードを使って解説するというものです。学生12名から出た言葉は以下になります。
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     目立つのは元気で笑顔で温かく迎え入れてくれた谷地区の人たちの印象や、交流を表す言葉が多く出ています。他には谷で昔から食べられていた伝統料理(保存食)や、お祭りなどの文化、そして自然についての言葉が並びます。
     AtoZのまとめは、谷地区の方と学生でグループを組んで話し合い、最後は各グループからそれぞれ発表していただきました。そこから出てきた言葉は、「谷」という山深い地域での生活や歴史、現在の活動を表すものでした。冊子に掲載出来た言葉は26しかありません。ぜひ実際に地区を訪れて、ここに載せられなかった「谷にあるもの」を見つけていただければと思います。
     
     県内の伝統文化の調査研究をしていますが、地域に伝承されてきた暮らしの様子や、生活の知恵などを語れる方が少なくなっているように思います。また生活の不便な集落は住民が減り集落自体が無くなる事態も出てきています。「集落を雪崩から守り、水をためる働きがあるブナ林」「雪道を歩きやすくする“かんじき”」「雪を利用して重い木材を運ぶ“てぞり”」など、雪国で伝承されてきた知恵は、このまま集落とともに消えてしまうのでしょうか。文化とは人が自然から恵みを得るために伝承され研鑽されてきた知恵と技術の結晶です。たとえ無住化したとしても、また復興できるように、また集って語り合えるように、伝承を残すことはとても重要なことです。その第一歩として、このような取り組みにも興味を持っていただければと思います。
     
     みなさまの地域におかれましても、伝統文化や記録に残したい伝承などがありましたら、ご紹介くださいますと可能な範囲で支援していきたいと思います。

    こちらから全ページをご覧になれます→北谷町谷の26のこと[AtoZ]Web閲覧用(3.9MB)
    ※印刷用データが必要な場合は、研究所にお問い合わせください。
  • tutu.jpgツツを覗く

     タネも仕掛けもない、節(ふし)が抜かれた竹筒2本。餌も入れず湖に沈めるだけで、あら不思議、ウナギが捕れます。

     実際は沈める場所の水深や水温などを考えながら仕掛けるものですが、それにしてもとても簡易な仕掛けです。「餌もないのになぜウナギが入るのか?」「蓋やカエシがなくて、ウナギは逃げないのか?」などの疑問が出てきます。他の地域では、一度入ったウナギが抜け出さないようにカエシと呼ばれる仕掛けがつけられていることがあります。しかし三方湖の漁師さんは「カエシをつけたらウナギが入らなかった」と言います。

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    三方湖で使われていた竹筒(内部見取り図)。竹の節を抜いただけ。
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    東京多摩川で使われていたウナギドウ(内部見取り図)。カエシと呼ばれる仕掛けが2つつく。

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     三方五湖では、海水の日向湖をのぞいてウナギを獲る漁が盛んで、その漁法としては「縄漁」と、この竹筒を使用した「筒漁」が主流です。筒漁は、ウナギが狭い場所に入り込む習性を利用して捕獲する漁です。そのため餌がなくても筒に入りますし、カエシや蓋を付けなくても逃げ出さないのです。漁師は仕掛けた筒を真っ直ぐ、そっと引き上げます。その間「ウナギは筒の中に留まろうとする」と漁師は言います。人から見れば罠ですが、ウナギからすると、そこは居心地の良い巣なのかもしれません。手元まで上げると、筒用のタモを片端にあて、そこにウナギを落とすように筒を傾けます。筒からウナギを受けるタモは、口が狭く、あみが深く作られています。これは捕まえたウナギがタモから飛び出して逃げるのを防ぐためです。
     筒で獲れたウナギは傷がつきません。そのため小さいウナギはそのまま湖に返しても弱ることなく成長することができ、資源保護にも適した漁法といえます。

     

     近年は竹を採る手間や、耐用年数の関係で塩ビパイプなどで作ります。2、3本の筒を束ねた状態を1カラゲと言い、湖底に刺した竹ざおに括り付けて仕掛けます。昭和40年頃まではウナギが良く捕れ、その頃は250mの幹縄に5m間隔で50カラゲの筒を取り付けて、これを一人当たり8縄仕掛けたと言います。漁期はウナギが活動的になる4月から11月頃までですが、冬の間も仕掛けはそのまま置かれています。
     三方湖を眺めると何か棒が立ててあるところがあると思います。その下には筒や柴が沈めてあるのです。


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  •  いま、日本農業遺産に認定された三方五湖の伝統漁法の一つ「たたき網」について調査を進めています。
     三方湖の冬の風物詩「たたき網漁」は、水面を竹ざおで叩いて、仕掛けておいた網にフナやコイを追い込んで捕獲する漁法です。毎年解禁日の12月1日には鳥浜漁協の組合員が湖面に舟を並べ、巧みに船外機を操りながら水面を叩き、大きな水しぶきをあげる様子を見ることができます。

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     魚を音などで脅し、追い込んで捕獲する漁は日本各地で古来から行われていました。三方湖でも慶長14(1609)年の文書の中に(『吉田家文書』)「たゝきあミ」の言葉が登場し、400年以上前から伝統的に行われてきたことが分かります。青竹で水面を叩くようになったのは昭和に入ってからと言われており、以前は舟の縁を木の棒で叩き音を出していたようです。そのため叩き方や出る音から「カチ網」や「コトコト網」などともよばれていました。
     たたき網の魚を脅かす方法はいくつかあったようですが、漁に使われる刺網は「昔から三方湖で使われていたそのままの形」だと鳥浜漁協の漁師さんたちは話します。この網は時代を経て工夫を重ねられて完成した美しい形をしています。

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     今使われている網は丈が1メートルほど、長さ40~50メートルほどのものを2枚連結して使います。購入した網地の上部には浮きの付いたテナワ(手縄)を編み、下部には錘の付いたすそ縄を編んで、漁師自ら漁期の前に1年分の網を作ります。
     網の目の大きさは、三方湖の魚の保護を考えて稚魚がかからない大きさに決められています。浮きはアバと呼ばれ、桐の木のひねた枝から削り出して作ります。アバとアバの間には網にたるみをもたせ、編地がぴんと張らないようにします。このたるみをイセと言います。錘はイワと呼ばれる紡錘形の土錘で、粘土をワラスベ(稲穂の芯部)に巻き付け焼いて作ります。焼くことでワラが燃えて無くなり、糸を通す穴が開くのです。はす川と高瀬川が合流するところに良い粘土があって、その土を練って使いました。昔はイワを作って売りに来る人もいて、一枡いくらで買うこともあったそうです。
     たたき網は、三方湖に入れられると湖底に立ったような状態になります。その横の水面を竹ざおで叩きながら進むと、音と衝撃に驚いた魚が網の方へ逃げて引っかかるのです。この時、イセのたるみと、浮きの浮力と錘の重さのバランスで、かかった魚は網にくるまれるようにかかると言います。魚の掛かりは、手縄の振動で伝わり、最後はタモを水に差し入れて捕獲します。
     網を観察して分かったことは、イセがあるために網の目の模様が、◇だけのつながりではない模様が現れることです。そしてその模様を生み出したのは、三方五湖で漁をしてきた人々が、代々魚を捕るために工夫を重ねた結果です。

     今後、さまざまな漁具の測図作業を進め、教育や農業遺産の紹介ツールとして活用していく予定です。調査は聞き書きや文献をもとに進めています。経験は皆が全く同じであるはずがないので、当コラムの内容と違う事実があるかもしれません。その時はご一報いただけるとお話を伺いに参ります。


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