福井県里山里海湖研究所

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石井 潤 の論文
研究活動の紹介(石井研究員;保全生態)

(1)三方五湖および北潟湖の自然再生に関する研究:水草に焦点を当てて


 水草は、様々な生物に生息環境や餌資源を提供するとともに環境とも相互作用し、水域の生物多様性と生態系の基盤をなします。そのため、水草は保全や再生の対象となり、また水草を調べることによって、水域の自然環境の状態を把握することができます。他方、水草が増えすぎて生活に被害を及ぼす場合は、除去の対象ともなります。本研究では、そのような水草に焦点を当てて、三方五湖および北潟湖の自然再生を目指した調査・分析を行います。
 研究対象の水域の1つである三方五湖は、平成17年にラムサール条約登録湿地に選定され、平成23年には三方五湖とその周辺地域の自然再生を目的として、自然再生推進法に基づく法定協議会である「三方五湖自然再生協議会」が設立されました。この協議会に6つある部会の1つ「外来生物等対策部会」では、三方五湖の1つである三方湖で繁茂する水草ヒシの対策に取り組んでいます。三方湖のヒシは、環境の変化に伴って、平成20年以降に急速に分布拡大し水面の広範囲を覆うようになりました。ヒシによる漁業や湖周辺の集落の生活への被害を軽減するためには、増えすぎたヒシを効率的に刈り取ることが必要です。そこで、私は外来生物等対策部会によるヒシ対策の活動に参加しながら、平成28~29年度にヒシを簡便に除去する方法について研究しました。その結果、漁業者の小型船舶を用いた『ワイヤー刈り』という方法によって、ヒシを簡便に刈り取ることができることを明らかにしました。そしてその研究成果に基づいて、『浮葉植物ヒシのワイヤー刈りマニュアル』を作成しました。私は本年度(平成31年度)から、次の課題として、ワイヤー刈りの刈り取り技術を用いて、どのように湖全体に広がるヒシを効率的・効果的に減少させられるかについて、研究を行います。
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       三方湖の水面いっぱいに広がるヒシ

 もう1つの研究対象である北潟湖では、平成30年度に「北潟湖自然再生協議会」(三方五湖自然再生協議会と同様に、自然再生推進法に基づく法定協議会である)が設立され、現在自然再生事業の計画を定めた実施計画書の策定に取り組んでいます。そこで、北潟湖の自然環境の状態を把握し自然再生上の課題を明らかにするために、北潟湖の水草と環境の調査を行い、その分析を進めています。その研究に先行して平成26~27年度に行った研究では、過去に撮影された北潟湖の空中写真を分析した結果、北潟湖の水草が現在までに衰退・消失する傾向にあり、また湖岸沿いの湿生・抽水植物群落が消失した原因として護岸がコンクリート化されたことが一因であることが明らかになりました。これらの研究成果と本研究の結果に基づき、今後の自然再生に向けた方策を検討します。
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        人の暮らしとともにある北潟湖

(2)環境保全型農法水田の生物多様性とお米の生産との関係の検討

 水田は稲作を目的に作られたものですが、同時に水辺の多様な生きものに生息・生育場所を提供します。かつてはそのような水辺は、子供たちに日常的な遊びや学びの場として利用されたり、ドジョウやタニシ、コイやフナなどが採集されて食卓に彩を添えていました。しかし農業の近代化が進み、農作業の効率化を目的として農薬や化学肥料が使用されるようになったり農業機械が導入されて、農業形態は大きく変化しました。それに伴い、水辺の生物多様性の衰退・消失が進みました。
 環境保全型農法は、農薬や化学肥料の使用量を減らしたり、生きものや自然環境の保全のために耕種作業の方法を変えたり田んぼの一部を生きものが住みやすいように改変したりする農法です。これまでの研究から、環境保全型農法は水辺の自然環境保全に貢献することに加えて、増えた生きものが天敵として害虫を防除したり、生きものの生息のための水管理が雑草防除の効果をもつなど、稲作にとっても役立つ可能性が示されています。しかしながら、その詳細なメカニズムは必ずしもよく分かっていません。環境保全型農法が、農薬や化学肥料の使用の代替方法として、どのようにどの程度貢献できるかについて、さらなる研究が必要だと考えられます。
 そこで、本研究では、三方五湖自然再生協議会が自然再生に取り組んでいる三方五湖周辺地域の水田を対象として、環境保全型農法水田の生物多様性とお米の生産との関係を検討します。そして、稲作にも環境保全にも貢献する農法を探ります。
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      無農薬の稲作で生きものいっぱいの水田
 

 

 

 


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