福井県里山里海湖研究所

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2021年2月のコラム
  • 石井 潤
     福井県の美浜町と若狭町にまたがる沿岸地域には、5つの湖が並んだ三方五湖があります。そのうちの1つ、三方湖はもっとも上流側に位置し淡水湖となっていますが、近年、水草の1種ヒシTrapa japonica Flerovが分布拡大し、地元の人々の暮らしにも影響するようになりました(2021年1月21日コラム参照)。そこで現在、増えすぎたヒシを低密度で管理するための刈り取り事業が、福井県によって進められています。
     ヒシは地域の暮らしに問題となる一方、三方湖の自然の一部であり生物多様性を育む要素の1つです。本コラムでは、そんなヒシの自然の構成員としての姿に思いを馳せていただくために、三方湖のヒシを撮影した動画をご紹介いたします。各タイトルをクリックすると、動画をご覧いただけます。
     
    (1)三方湖の湖面を覆うヒシ(3分50秒)
     (説明)三方湖に分布するヒシをドローンで撮影しました。この年のヒシは、いつもより広い範囲で湖面を覆いました。ヒシの浮葉(ロゼット)が湖面に出現し始めた5月22日と、生長が進んだ7月12日の三方湖の景観をご覧ください。
     【撮影日:2017年5月22日、7月12日】
     
    ・5月22日の三方湖のヒシ:0分6秒~0分50秒
    ・7月12日の三方湖のヒシ:0分51秒~2分8秒
     
    (2)三方湖のヒシを巡る(2分4秒)
     (説明)三方湖のヒシを巡る動画をドローンで撮影しました。見る距離の違いで風景が変わるヒシの姿をご覧ください。この年は、いつもより塩分濃度が高く、三方湖の西側から中央付近までヒシが見られなくなりました(ヒシと塩分濃度との関係については、2021年2月4日コラムを参照)。
     【撮影日:2016年9月16日】
     
    (3)ヒシが浮かぶ三方湖を走る ~トンボになった気分で~(6分10秒)
     (説明)走る船から眺める、三方湖の湖面に浮かぶヒシをGoProで撮影しました。湖面を飛ぶトンボになった気分でご覧ください。
     【撮影日:2015年8月4日】
     
     ※動画の提供:西廣淳氏(国立環境研究所)
     
    (4)三方湖の水中の世界 ~ヒシ群落の中と外~(2分57秒)
     (説明)三方湖の水中の世界をGoProで撮影しました。ヒシ群落の中と外で異なる景観をご覧ください。湖面に浮かぶヒシ群落の下は、小型の魚類の生息場所となっていました。
     【撮影日:2015年8月4日】
     
    ・ヒシ群落の中の水中の世界:0分6秒~2分3秒
    ・ヒシ群落の外の水中の世界:2分4秒~2分55秒
     
     ※動画の提供:西廣淳氏(国立環境研究所)
     
    (5)波に揺れるヒシ。波を穏やかにするヒシ。(57秒)
     (説明)ヒシ群落には、波を穏やかにする機能があると言われています。三方湖で波が強くなったときにヒシ群落の動画をデジカメで撮影しました。ヒシ群落と波との関係をご覧ください。
     【撮影日:2016年9月9日】
     
    (謝辞)
     三方湖のヒシの動画をご提供いただいた西廣淳氏(国立環境研究所)には、厚く御礼申し上げます。
  • 石井 潤
     福井県の美浜町と若狭町にまたがる場所に位置する三方五湖の1つ、三方湖では、水草の1種で浮葉植物であるヒシTrapa japonica Flerovが2008年以降急速に分布拡大し、その対策が課題となっています。自然再生推進法に基づく法定協議会である三方五湖自然再生協議会に設置された6つの部会の1つ、外来生物等対策部会では、2016年にヒシの管理方針を定めた「三方五湖自然再生事業 三方湖ヒシ対策ガイドライン」(4.9 MB)を作成しました。筆者は2018年に、新しいヒシの刈取り方法として、地元の漁業者が自身の小型船舶を用いてヒシを刈取ることができる「ワイヤー刈り」のマニュアル(3.3 MB)を作成して公表しました(2018年3月27日コラム参照)。そして、同年より福井県によるワイヤー刈りを用いたヒシの刈取り事業が開始されました。
     2018年に公表した「ワイヤー刈り」の装備には、解決すべき課題が残されていました。それは、ヒシの刈取り作業中にワイヤーが浮いてこないようにするために取り付けた重りを軽量化することです。2018年より開始されたヒシの刈取り事業では、ワイヤー刈り装備を改良して、この問題に対処しました。
     そこでこの度、この改良型ワイヤー刈り装備について解説した資料を作成し、公開することとしました。また、改良型ワイヤー刈り装備によるヒシの刈取りの様子を紹介する動画を作成しましたので、併せて公開いたします。
     
     『浮葉植物ヒシの刈取りのためのワイヤー刈り装備(改良型)』1.5 MB
     

    ~(動画) 浮葉植物ヒシのワイヤー刈りによる刈取り方法~
     
     ワイヤー刈りによるヒシの刈取り方法を動画でご紹介します。タイトルをクリックすると、YouTubeにアップロードした動画をご覧いただけます。
     
    (5)改良型ワイヤー刈り装備によるヒシの刈取り(3分38秒)
     (説明)改良型ワイヤー刈り装備を用いたヒシの刈取り作業の様子を動画でご紹介します。福井県による三方湖のヒシの刈取り事業での作業をドローンで撮影したものです。
     【撮影日:2018年5月25日】

    ・刈取り作業をした場所の景観:0分8秒~1分13秒 
    ・刈取り作業の様子     :1分14秒~3分38秒 

    ※なお、(1)~(4)の動画は、『浮葉植物ヒシのワイヤー刈りマニュアル』で解説したワイヤー刈りにより刈取り方法を紹介したものです。併せてご参考にしてください(下記アドレスをクリック)。
    https://www.youtube.com/playlist?list=PLF8XycfYwEdgHjAcKT5sa6Q-AyrGJOa_T

     
  • 石井 潤
    (3)三方湖のヒシの分布と塩分濃度との関係および2020年の塩分濃度の調査
     三方湖では、増えすぎたヒシを刈り取る事業が2018年度に開始されましたが、ヒシ対策を進める上で、塩分濃度の影響について考えることは必要不可欠な要素となっています。ヒシは淡水生の水草であり、塩分濃度が高くなると種子の発芽や実生の生長が抑制されます。一方で、最近、三方湖の塩分濃度が高くなる現象が確認されています。
     
    1. 三方湖のヒシの分布と塩分濃度との関係
     三方湖のヒシと塩分濃度との関係については、東邦大学の西廣淳先生(現在、国立環境研究所所属)の研究グループが詳しく研究をされています(Nishihiro et al. 2014)。西廣先生らの研究によると、ヒシは塩分濃度が2 ‰のとき、種子の発芽率は100 %であるのに対して、実生の生存率は80 %近くに低下することが、実験的に確かめられています。さらに塩分濃度が4 ‰になると、種子の発芽率は90 %近くに低下し、実生の生存率は0 %になりました。海水の塩分濃度が34 ‰程度なので、海水に比べれば非常に低い塩分濃度であっても、ヒシの生育は抑制されることが分かります。
     それでは、三方湖の塩分濃度は、どのような値を示しているでしょうか?ヒシの種子の発芽と実生の生長は、春季の4~6月に活発に起こりますので、この時期の塩分濃度に注目してみます。西廣先生らによる2010年の調査結果では、三方湖が水月湖と接する付近(三方湖の下流側)では最大で2~3 PSU程度でした。この値は、2~3 ‰程度と同等の値です。つまり、ヒシの種子の発芽や実生の生育に影響する塩分濃度となっていました。そして、同じ年の7月に撮影された空中写真をみると、この付近にヒシの分布は確認されませんでした(年は異なりますが、2021年1月21日のコラムの写真3も、ヒシの分布傾向は同じですのでご参考にしてください)。西廣先生らは、塩分濃度が高いことがこの付近のヒシの分布を抑制したと結論付けました。西廣先生らの研究グループは、三方湖の中央付近とはす川の河口付近(三方湖の上流側に位置。2021年1月21日のコラムの図1も参照のこと。はす川は、三方湖に流入する最大河川である)でも同様に塩分濃度の調査を行いました。その結果、これらの場所の塩分濃度は0~1 PSUであり、真水か真水に近い状態であることが分かりました。
     一般的に、三方湖は淡水の湖とされています。しかし、三方湖を含む三方五湖は、日本海の沿岸に位置し、三方湖は、水月湖から浦見川、久々子湖、早瀬川を経て、日本海とつながっています(2021年1月21日のコラムの図1参照)。そのため、条件が揃えば、日本海から三方湖まで海水が流入することがあるのです。その距離は、おおよそ5~7 kmです。このような理由で、三方湖が水月湖と接する付近で塩分濃度が高くなったと考えられます。そして、2010年に調査したときは、少なくとも三方湖の中央付近から上流側では、塩分濃度が著しく上昇するような海水の流入はほとんどなかったと言えます。
     
    引用文献
    Nishihiro J., Kato Y., Yoshida T., Washitani I. (2014) Heterogeneous distribution of a floating-leaved plant, Trapa japonica, in Lake Mikata, Japan, is determined by limitations on seed dispersal and harmful salinity levels. Ecological Research 29, 981-989.
    (https://link.springer.com/article/10.1007/s11284-014-1186-6)
     
    2. 2020年の塩分濃度の調査
     上述の通り、西廣先生らによる2010年の塩分濃度の調査結果では、三方湖への海水の流入の影響は、三方湖の下流側の水月湖と接する付近にとどまっていました。しかし最近、年によって、海水の影響が湖の中央付近やさらにその上流側まで見られるようになりました。
     そのため、三方湖では2016年から毎年塩分濃度のモニタリングが行われています。現在、私は塩分濃度の調査業務も担当しており、年に数回ほど三方湖に塩分濃度の調査に行っています。2020年10月28日に調査したときの様子を、写真でご紹介したいと思います(写真1-4)。

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    写真1. 三方湖の塩分濃度の調査では、福井県立三方青年の家が所有しているゴムボートを使って、計測地点に向かいます。私が三方湖の調査をするとき、毎回お世話になっているボートです。時々船外機のエンジンがとまる気難し屋でもあります(そのため、オールは必須です)。

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    写真2. はす川の河口から三方湖へ出発。左奥には、三方五湖レインボーラインが通る梅丈岳が見えています。天気が良いと、とても素敵な景観を眺めながら調査に行けます。この日は、あいにく曇りでした。

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    写真3. 手前に写っている棒は、エビ類を獲るための柴漬け漁のためのものであり、湖底に沈めた束ねた枝葉をくくり付けたロープが結ばれています。三方湖には、あちこちにこうした漁具が設置してあるため、注意しながら湖の中を進みます。柴漬け漁のほかには、ウナギ漁のための漁具が設置されています。

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    写真4. 塩分計を設置して塩分濃度を計測していますが、この写真は回収した塩分計の装備一式です。写真の中央やや左側の黒い円柱形のもの(黄色のビニールテープが巻かれているものが2つ見えている)が塩分計です。時間が経ちすぎると、塩分計やロープ、浮きに用いているペットボトルなどが藻類に覆われてしまいます。今回は少し覆われ過ぎました。塩分濃度が高くなると、フジツボが付着してしまうこともあります。

     塩分濃度の調査の結果、2020年は、4~6月においてはす川河口付近でも塩分濃度が2 ‰を超える日があり、海水の流入の影響の大きい年でした。おそらくそれが大きな要因の1つとなって、2020年はヒシがほとんど見られなくなったと考えられます(写真5)。ヒシ群落は、はす川河口付近の湖岸沿い(写真の右下側)などにわずかに残存している状況となり、今度は、ヒシ群落の正の効果が期待できないため、その影響を注視しています。

    2101_3pic5.jpg
    写真5. 2020年8月19日に撮影された三方湖の空中写真。湖面に見えている靄(もや)のようなものは、雲などの影響によるものです。

     塩分濃度の変動は、人為的に管理することは難しいです。ヒシ対策の観点からは、塩分濃度の上昇はヒシ群落の面積を減少させる効果が期待されるため、その機会をうまく活用して今後の刈り取り事業を順応的に進め、自然の力も利用した“効果的で省力化したヒシの刈り取り”を行っていくことが重要であると考えられます。同時に、淡水生の生物相に影響する可能性や、その他のヒシ群落のもつ正の効果が抑制される可能性にも注意を払う必要があると考えられます。


     

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