福井県里山里海湖研究所

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北川淳子
水月湖と北潟湖のボーリング調査

水月湖のボーリング調査


  この夏、福井県が水月湖のボーリング調査を行いました。この目的は、学術調査はもちろん、世界の地質時計となり有名になった水月湖の年縞を広く一般の方々に見てもらうため、完全に連続した年縞を採取し、展示用に加工することです。この目的は100%以上に達成され、うまくいけば数年後には完全に連続した本物の年縞をご覧になれるかと思います。私はこの調査に少なからず関わりました。

 土の採取についてはプロのボーリング会社の方がこちらの、「歪みのない、ひび割れのない」サンプルを、という要求に答え、多大な努力をしてくださいました。この「歪みのない、ひび割れのない」という条件をクリアすることは、湖底の土の硬さの違いがあったり、様々なもの(火山灰、木片など)が含まれていたりで、非常に難しいものですが、それをみごとに達成していただきました。

 採取された柱状の土(コア)はそのままでは単なる棒です。土は1m程度のパイプに入っています。パイプ自体は1m程度ですので、連続したコアは1つの穴からは採取できません。それで2つ目の穴、3つ目の穴と掘り、抜けている部分を補完するわけです。補完されているかどうかを確認するために、上がってきたコアはその場で中を抜き取り、縞々を確認していきます。その後、展示用、研究用に分けていく作業が水月湖湖畔の遊覧船乗り場駐車場のプレハブで行われました。コアの直径は約8㎝。ボーリング調査には多額の費用がかかるので、採取できたものからできるだけ多くの研究用のサンプルを分ける必要があります。また、展示用のものは本当に壊れることなく分けなければなりません。これを壊れることなく、きれいに切り分けるのも大変難しい作業です。立命館大学の中川毅教授はこれを様々な道具を開発・作成して難関を突破しました。展示用はコアの幅いっぱいに、研究用はそれぞれの目的に合わせた幅で分けていきます。そして、今回の目的で分けたあとの残りは、サンプルが酸化してしまわないように真空パックをして、冷蔵庫に順に入れていきます。

 多くの人の手がかかり、現在、展示用のサンプルは展示用に加工されるのを待ち、研究用のサンプルはまだ冷蔵庫に保管され研究されるのを待っています。水月湖のサンプルは大変学術的に価値の高いものです。年縞があること、年縞の下にも土はたまっていて、それが19万年以上にもなります。過去19万年分もの土をためている湖は少なく、地質時計の世界基準であるこの土をさらに研究することで、世界各地の他の湖沼の土の年代をさらに正確に測定できるようになり、また、過去の気候変動、これからの気候変動の予測ができることが期待できます。

 

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写真1 水月湖ボーリング調査の筏と櫓。作業員がボーリング作業をしています。
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 写真2 手製の道具でコアを切り分ける立命館大学中川毅教授
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写真3 ボーリング作業が終わると筏は岸に上げ、解体し、クレーンでトラックに積み込みます。
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 写真4 1か月半、水月湖に浮かべられていたため、多くの生物が筏に付着、または入り込んでいました。
 

北潟湖ボーリング調査


 水月湖の年縞は貴重なものですが、それだけでは過去の環境をすべて語れません。地域差もあり、それぞれの文化、歴史があります。そこで、水月湖だけでなく、他の湖沼の調査を実施します。もちろん、水月湖のような年縞はありませんが、水月湖の年代が基準となり、他の湖沼も年代が決まっていきます。また、復元された環境を比較することで、人間の活動による環境への影響が見えてきます。そこで、平成26年12月7日~12月10日に北潟湖でボーリング調査を行いました。
 

 天候は悪く、雨が降りましたが、調査は順調に進み、よいサンプルがとれました。
 調査メンバーは次の通りです。
  ・北川淳子(福井県里山里海湖研究所)
  ・篠塚良嗣(立命館大学)
  ・吉田明弘(明治大学)

 北潟漁協の人に船を出してもらいました。船を出していただいた方は、辻下氏(組合長)と山岸氏(理事)です。

 12月7日には調査地点の下調べとして、水深と緯度経度を測定し、最終的なボーリング地点を決定しました。その場所には目印として竹を刺しておきました。
 調査地点は図に示しています。
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 12月8日の朝、福井新聞と県民福井の人に取材を受け、調査の概要を説明した後に、ボーリング調査を始めました。8日と9日で5地点のコアを採取しましたが、地点4は最も上流で、過去の谷の部分であったせいか、底は浅く、170cmまでしか採取できませんでした。もっとも深かったのは地点3でした。地点3では、深さ530cmまで採取できました。しかしながら、年代測定の試料などとれたり、貝層などがはいっていたりして、面白そうなのは地点1でした。地点1はさらに深く掘れないかと2回、掘ってみましたが、2回目もほとんど同じ深さまでしかほれませんでした。地点5は前日の予備調査で下が他よりかなり固かったのですが、どうもこの硬い層は貝の層のようです。江戸時代にはカキの養殖があったということですが、年代測定の結果などでないとはっきりは分かりませんが、ひょっとするとカキの養殖の層かもしれません。

 この2日間に採取された土は現在、研究所の冷蔵庫の中にあり、花粉分析を中心に行い、北潟湖周辺の過去の景観の変化を見て行く予定です。

 この周辺の環境に大きな影響を与えたと考えられる一つの出来事は製塩です。北潟湖近くでは製塩炉が発見され、新聞にもでました。そこで、12月10日には、北潟湖近くの細呂木阪東山遺跡を視察しました。県の埋蔵文化財調査センターの細呂木阪東山遺跡の担当者の白川氏より説明を受けました。残念ながら炉はすでに調査が済みなくなっていました。その代わりに、製塩のためにたくさんの火を炊いた痕ともいえる炭片のたくさん含まれた真黒な平安時代の層が見られました。この活動は北潟湖の土の中に記録されていると考えられるため、分析結果が楽しみです。
 

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写真1 目印の竹
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写真2 ロシア式ピートサンプラーによるコアの採取。とても力が要ります。
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写真3 貝の層を含むコア。江戸時代のカキの養殖の痕跡の可能性。ボーリング地点5より。
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 写真4 黒い平安時代の層

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