福井県里山里海湖研究所

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石井 潤
【解説】三方湖のヒシ問題 ~その対策の考え方と計画、および塩分濃度の影響について~(その2)
(2)三方湖のヒシ対策のためのアンケート調査と刈り取り計画の提案
 三方湖では、2018年度から福井県によるヒシの刈り取り事業が開始されました。ヒシを刈り取る方法としては、主としてワイヤー刈り(小型船舶にとりつけたワイヤーを湖底に這わしてヒシの茎を切断するか引っかけて刈り取る方法。詳細は2018.03.27コラム参照)が用いられています。
 ヒシは、ゾーニングに基づいて刈り取りが行われますが、刈り取りを行う際の参考とするために、三方五湖自然再生協議会外来生物等対策部会において、湖岸沿いの集落を対象とした三方湖のヒシについての聞き取り調査を行うことを提案しました。ヒシ対策については、外来生物等対策部会に参加されている地元の方々からご意見をうかがっていましたが、より多くの方々の声を聞いて、ヒシの刈り取り事業に活かしたいと考えました。そして、2019年3~5月に外来生物等対策部会の事務局である若狭町歴史文化課と協力して、海山、北条、伊良積、成出の4集落でアンケート調査を実施しました。
 このアンケート調査の結果、改めて、多くの方々がヒシ対策の実施を望んでいることが確認されました。その理由として、湖岸に流れついたヒシが枯死する際に悪臭を発生するというご意見が多く挙げられました。また、景観が悪くなり、観光にも影響するという理由も挙げられていました。さらに、台風などのときにヒシが湖岸沿いの畑などに打ち上げられ、その中に含まれる硬いヒシの種子(写真1)が靴の裏に刺さったり、タイヤがパンクしたことがあるというご意見もありました。4集落の中で、海山は水月湖の湖岸にある集落ですが、アンケート結果から、水月湖に流れ着いたヒシが同様の問題を引き起こすことも確認されました。数は少なかったですが、ヒシが増えることは自然現象であり、対策は不要ではないかというご意見もありました。これもまた貴重なご意見の1つでした。

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写真1. ヒシの種子。その殻は硬く、踏むと靴底に刺さることがあります。右の写真は、ヒシの種子の殻と殻が絡み合って団子状になったのもので、おそらく湖岸で波に転がされて、偶然にできたと思われます。

 アンケート調査に加えて、三方五湖の漁業者のご意見も再度確認しました。その結果、はす川河口から水月湖に向けての水の流れを妨げないようにゾーン1の刈り取りを行うことと、水月湖にヒシが流れ出さないように刈り取りを行うことを希望されました。
 そこで、これらのご意見と三方湖ヒシ対策ガイドラインで定められたゾーニングに基づいて、刈り取り計画を再検討し、提案しました(図1)。この計画は、2019年6月に開催された外来生物等対策部会においても承認されました。

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図1. 2019年度に提案した三方湖のヒシ対策のためのゾーニング。

〇ゾーン1(橙色の範囲)とゾーン2(黄色の範囲)で、ヒシができるだけ分布しないようになることを目標に刈り取りを行う。特に、湖岸沿いの集落付近とはす川河口から水月湖までの範囲におけるヒシの局所的な根絶を目標とする。
 (留意事項)ただし、刈り取り対象の場所であっても漁具が設置されている場合は、漁業の妨げとならないように、刈り取りを実施しない。漁業者から許可が得られた場合のみ、刈り取りを実施する。

〇水月湖にヒシが流れ出さないような刈り取り方法として、水月湖との境界付近に近い三方湖の西側の範囲(青色の範囲)のヒシの刈り取りを、可能な範囲で試験的に行う。
 
 さて、ゾーン1と2でヒシが分布しないように局所的に根絶するためには、具体的にどのような刈り取りをすれば良いでしょうか?その刈り取り方法を検討するためには、ヒシの生態をよく理解する必要があります。
 まず、ヒシは1年生の水草です(図2)。春に湖底にある種子が発芽し、生長します。初夏から開花するようになり、その後結実し、種子が散布されます。秋以降は、種子を残して植物体は枯死します。種子は水に沈み、湖底で冬を過ごします。そして、春になると再び種子が発芽し、生長が始まります。このような生態をもっていることから、ヒシを根絶するためにはその場所でヒシの種子が存在しないようにする必要があります。

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図2. ヒシの生活史。

 そのためには、どうすれば良いでしょうか?一番に思いつくことは、種子を生産させないようにすることです。そのためには、ヒシの種子の生産が始まる7~8月までに、ヒシの刈り取りを行えば良いということになります。
 しかしながら、ヒシの刈り取りを1回しただけでは、その場所から種子が消失するとは限りません。その理由は、土壌シードバンクが存在する可能性があるからです(図3)。土壌シードバンクとは、土壌中で発芽せず休眠している種子の集まりのことであり、種子の寿命の限り土壌シードバンクは存在します。そして、ヒシの種子は、少なくとも数年は発芽しないでも生存できることが示されています。三方湖の湖底の土壌中に含まれるヒシの種子を直接除去することは現実的ではないため、その代替策として、これらの種子が寿命で死亡するまでの間、経年的にヒシの刈り取りを行って、その場所で新たに種子の生産をさせない方法が考えられます。その結果、土壌シードバンクが消失すれば、その場所ではもうヒシは出現しなくなります。
ヒシの種子が存在しないようにするためには、他の場所の種子が散布されて移入することを防ぐことも必要です。成熟した種子は水に沈みやすいため、一般的には近い範囲に散布されやすいですが、大雨のときなどにロゼット(葉っぱの集まり)が切り離され、ロゼットに付いている種子が一緒に流されて遠くまで散布される場合があります。後者については対策が困難ですが、前者についてはヒシを刈り取る範囲を多少広くすることで軽減できると考えられます(図3)。
 ヒシの生態を考慮した刈り取り方法をまとめると、以下のようになります。先の刈り取り計画と併せてこれらの刈り取り方法も提案しました。

◆必ず、毎年同じ場所でヒシの刈り取りを行い、新たな種子の生産を防ぎ、土壌シードバンクを消失させる。
◆対象とする場所の広めの範囲でヒシの刈り取りを行い、周辺からの種子の移入を防ぐ。

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図3. ヒシ群落の局所的な根絶に向けた刈り取り方法。

 ヒシ対策においては、自然を相手にするために想定していないことが起きる可能性があります。そのため、刈り取り実施後は刈り取りの結果を評価し、その結果に基づいて必要に応じて計画を再検討することが、新たな知見を蓄積しながら対策の効果を上げることに有用です。このような自然環境の管理方法を順応的管理と言います。私は、ヒシの刈り刈り事業を順応的管理によって進めるために、現在はヒシの分布状況を評価する業務を担当しています。

 

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